京菓子寸話「吉野葛」
みずみずしく透きとおる輝きをもち、口に入れると舌の先で柔らかくとろけていく葛菓子のおいしさ。弊店のミニサイズ二層羊羹「花つどい」や「京の秋」にも吉野葛が用いられています。
葛といえば吉野葛で、古くから吉野地方に産する葛粉を最良のものとしてきました。吉野葛を材料とする菓子や料理のことを吉野仕立てと呼ぶほどです。吉野葛は山野に自生する葛の根から取るデンプンですが、このマメ科の植物は秋の七草のひとつとして古来親しまれる日本原産の野草で、その名の起こりは紙をすく「国栖」の村に由来するといわれます。
葛の根を掘り起こすのは11月から翌年3月の間で、夏の陽光を吸って根に充分養分を貯えています。それをよく水洗いした後、破砕機にかけて砕き、水を満たした桶に入れて攪拌してデンプンの液と繊維を分離します。葛のデンプンは根のなかで目に見えないほど小さな袋の中につまっていて、10貫の根からおよそ1貫のデンプンがとれるといわれます。
デンプンの液はまだ濁っていて他の物質を完全に除去したわけではないので、さらにきれいな地下水を入れた桶に麻袋でこしたものを移して静置するとデンプンは沈殿します。上澄み液を取り除きながらこの過程を5、6回繰り返すとしだいに純白となり、仕上げは水をきって布に木灰をのせたもので吸水すると純粋なデンプンの結晶が残ります。
このときの吸収は木灰にまさるものがないといいます。そのあと木箱に移して乾燥蔵で40日から60日かけて自然乾燥させると純白の岩塊のような葛粉ができあがるのです。冬は100日ほど乾燥蔵にねかす必要があるといいます。以上が吉野晒しと呼ばれる伝統的な精製技術です。
こうして手塩にかけて精製した吉野葛は、国栖の手ずき和紙の袋に入れられて菓匠の手に渡るのですが、古代史を彩った吉野の時は大きく移り変わったけれど。変わらない吉野の良さは里人たちの暮らしのなかで今も伝えられていることを教えられるのです。