京菓子寸話「栗」
栗はお菓子にとってはだいじな材料のひとつです。栗の実の甘さ、香ばしさには秋の陽光に照り映える野山や日の匂いがこもっていて郷愁をそそるようです。
万葉集の山上憶良(やまのうえのおくら)の歌に「瓜食(は)めば 子ども思ほゆ、栗食(は)めば まして偲(しの)ばゆ」という有名な一節がありますが、万葉の時代のお菓子はまさに瓜や栗であったわけです。栗はこどもの頃の郷愁につながると同時に、日本のふるさとの味覚といってもいいものでしょう。
平安期の大嘗会(だいじょうえ)では、神への供物として「橘子(大柑子・小柑子)、搗栗、扁栗、焼栗、削栗、干柿、熟柿、柚」などがあったことが記録に見えています。また栗は柿とともに秋の風物詩とされますが、どういうわけかどちらも正月を祝う味覚として、古くから日本人の暮らしに根づいております。
搗栗(かちぐり)は臼で栗の実をついて、渋皮を取除いたものですが、それを勝栗とも表して縁起のよさをよろこぶしきたりがあります。いずれにしろ、栗は古来五穀に次ぐ重要な食物として喜ばれてきました。
利休が茶道を茶菓子としてよく用いられたことが、茶書「南方録」などに見られます。「ヤキ栗椎茸」「コブアブリテ栗」などと記されています。栗はブナ科のクリ属で、全世界の温帯地方に自生します。日本の栗は日本栗と呼ばれてその品質のよさは知られています。
最も古くから栽培されたのが丹波産の栗で、すぐれた品質は屈指とされます。京菓子では、古くからこの丹波栗を使って風味あるお菓子にしています。栗羊羹、栗まんじゅう、栗きんとんなどです。ヨーロッパでもマロン・グラッセなど、お菓子に栗が使われる例はよくあります。
鶴屋吉信では、「栗まろ」をはじめ、「栗羊羹」や「栗蒸羊羹」、「鶴屋吉信ようかん・栗」等が栗のおいしい風味でたいへんよろこばれております。