京菓子寸話「笹」
暮らしの季節感を大切にするのが日本のすぐれた伝統のひとつです。夏のすだれ、うちわ、風鈴、竹籠、打ち水、庭の青苔などは、夏を涼しくさわやかにと願う暮らしの工夫から生まれたものです。
住居ばかりでなく、食生活もそれに劣らず工夫をします。うつわも見た目にも涼しいものでなければいけません。青もみじの葉を1枚そえるとか、笹の葉にのせるとか、そんなちょっとした工夫でふしぎとお菓子も料理も、いかにも涼味をそえるものになります。そうした季節感の表現に自然のものを巧みに用いるのも、京の伝統です。そのひとつに笹があります。
笹は東アジア一帯にひろく分布しますが、とりわけ日本の山野によく自生して、ラテン名をSasaとつづるほど日本固有のものです。ササの語源は小さな竹を意味するささ竹のささからとも、葉が風に吹かれてすれ合う音の表現からともいわれますが、いずれにしても語感そのものが涼しげです。
お菓子に用いられる笹の最も古いかたちはいうまでもなく粽(ちまき)です。古代中国から伝えられた粽は端午の節句のお菓子や祇園祭の象徴として根づきました。粽の変種とも考えれるものが各地に伝えられていて、山形・秋田あたりでは正月に笹巻きを祝い、長崎ではお盆、島根では梅雨明けの半夏生で笹巻餅を食べる習わしが古くからありますが、これでみても笹で巻いて食べることは改まった日の食物であることが知られます。
また魚などを贈るとき笹の葉をそえる古くからの習わしも、見た目の新鮮さを演出すると同時に笹の芳香などが防腐の役目を果たしているとも考えられます。笹は邪気をはらうと信じた祖先の智恵が、案外そんなところに発しているのかもしれません。
粽に用いられる笹はその名の通りチマキザサといい、深山に自生します。京都では北山の花背がチマキザサの産地として有名でしたが、近年鹿の被害等で絶滅の危機に瀕しており、再生を目指す取り組みが行なわれています。